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柳承敏に見る「日ペンは最高のワープア戦型である」

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卓球ファンの社会的地位向上によって、卓球マンガの乱立という、まさかの現象が起きている。

最近の少年マンガの連載だけでも、少年マガジンの「ピンキュー」。少年チャンピオンの「少年ラケット」。そして天下の少年ジャンプでも「卓上のアゲハ」があるほど。

nippen

そして満を持して登場した、卓球マンガ界の大本命候補こそが、少年サンデーで連載がはじまった大谷アキラ氏の「ニッペン!」である。

現代、特にジュニア世代では絶滅寸前の「日ペン(日本式ペンホルダー)」を使い、フットワークを駆使したペンドライブ戦型という前時代的すぎる戦い方で、大主流のシェークハンドの強豪らへ挑むという、もうそれを聞いただけで血沸き肉踊る物語。

内容も素晴らしい。あの卓球コラムニスト伊藤条太氏がブログで
「卓球技術はこれまでのどの卓球マンガより本格的。」
「この連載第1回で思いっきり鳥肌が立った。」
「どう考えても面白いだろこれ。」
と断言した程である。

伊藤条太氏のブログ

私も二話まで読んだだけで、胸躍る、心躍る活劇にハートが奪われた。
確かに、間違いなく面白いだろ、これ!

…ただ、私に一つ懸念が生まれる。
これを読んだ少年少女たちが「日ペンカッコイイ!僕も私も日ペンにしよう!」
と選択を誤ることだ。

やってみるとわかるが、日ペンは破滅的にバックハンドが弱い戦型。

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画像出典

片面ラバーしか使えない刹那、バックを撃つ際には「ぐりん」と不自然に手首を返さなくてはならず、その時点で一瞬対応が遅れ、手首が無理な体制に曲がっている分、手首の力も使えず、リーチも短く、ほぼ「バックショート」一辺倒で耐え忍ぶしか無い、あゝ野麦峠な戦型。

そんな大変な思いをして戦っても、
「不利なので、なかなか勝てない」
という根本的な悲劇にブチ当たるのだ。

そんな「頑張っても、報われない」という、最近の若者を彷彿とさせるようなワープア戦型なのである。

それでも日ペンでやりたい!と思う少年少女に、以下の映像を観て欲しい。


00年代、韓国卓球黄金時代を支えた2人。ここ15年日ペン世界最強として君臨した柳承敏に、アジアの大砲こと身長186cmの右シェークドライブ型・呉尚垠が相見えた一戦。

もはや呉は「カモがネギしょってやってきた!」というばかりに、水を得た魚のように得点を積み重ねるばかり。

そう、大きなフットワークや無理な動作を強いられる日ペンは、その球には反応できても、次の球に反応する事が出来ず、ガラガラと崩れて瓦解してしまう事が圧倒的に多いのだ。

日ペンの最大のメリットである一発強打のドライブも、もはや打たせてくれない。それどころか、柳は回りこんでのループドライブに誘い込まれ、思いっきりガラ空きのフォアにノータッチエースの山を築かれる。

フォアドライブを読まれた時に、バックブロックでコースを少し変えられるだけで、柳承敏は後が無くなり、必死の抵抗むなしく敗れた。

このように日ペンのあらゆる弱点が一気に出てしまった試合は、もう一つある。

2008年の北京オリンピック団体戦準決勝、中国VS韓国。
同じく柳承敏に対するは、09年横浜世界選手権男子シングルスを制するなど、00年代に中国三強の一角として外国人に無敵の強さを誇った、王皓。

柳承敏の日ペン(日本式ペンホルダー)の片面ラバーに対し、中国式ペンホルダーの王皓は、両面にラバーを貼っての革命的スイングである「裏面打法」を完成の域まで高めた、ペン新時代の第一人者。

試合は、王皓が誘導する通りにバックの打ち合いに。
時にシェークハンドさえ凌ぐ、強いドライブ性の裏面ハーフボレーが、柳のバックを繰り返しえぐっていく。

対する柳のバックショートは手首が裏面打法ほどは使えないので、ドライブ回転があまりかからず、ボールに安定性が無くミスが重なっていく。

王皓がバックへの鋭い返球を何球か続け、柳がバックに注意が行き過ぎたり、たまらず回り込んだりするのを王皓は見計らって、ゆうゆうと誰もいないガラ空きのフォアへノータッチエースを決める。

ひどくかんたんな3手詰め、5手詰めの詰将棋を問くように王皓は勝ち、柳承敏は負けた。

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画像出典

これほどまでに、日ペンは大変なのだ。
もし少年少女が今から日ペンにしたいのであれば、「自分の卓球人生を棒に振る事を覚悟の戦型」である事を念頭に置いて欲しい。

ただ、個人的に日ペンという戦型は大好きだ。
破滅的な「バック」という弱点を常に抱えながらも、一撃必殺のフォアドライブを武器に、刹那的すぎる戦型を生きる男たちが大好きだ。

その姿は、鳥羽伏見の戦いの新選組を思わせる。すでに日本刀という武器が時代遅れになりながらも、鉄砲主体の新政府軍と闘い、夢散にも散っていった美しい姿。

日ペンは、その負けっぷりも味であると同時に、先の柳承敏が、対戦成績0勝10敗であった王皓に2004年アテネオリンピック決勝で勝ち、金メダルを獲得したように、大舞台での爆発力も秘めている。

それでも、勝ちにくい最高のワープア戦型なのは火を見るより明らかだが、勝っても負けても美しい、日ペン(ペンドラ)は少しでも生き残って欲しいとも思う。

それこそ、ニッペンを読んだ少年少女に託したい。

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (6件)

  • 薩摩二の太刀入らずの示現流なんです。ペンは。回り込んで返ってきたら負けなんです。まさに漢の卓球

    • コメントありがとうございます。

      片面ペンドラはまさに、一撃必殺で殺るか殺られるかの戦法で、僕も大好きです。ただ、トップレベルだと、柳承敏や吉田海偉の豪打ですら返球されてしまう事もままあるので、戦型としては非常にリスキーこの上なしですよね。

      日ペンは韓国でも日本でも絶滅寸前ですが、何とか全日本ランク入りする位の強豪がまた出てきてほしいものです。

  • 日ペンの亜種反転式ペン使ったことありますがやっぱりバックがやりにくいですね
    不自然にラケット向ける感覚で常「バックのブロックやりにくいなあ」と思いながらやってました
    逆にフォアの方がスッとラケットの面を向ける感覚でやりやすかった

    • そう、片面ペンだとバックはキツいですね。バックのブロックをするにも、グッと手首を捻ってバックの角度を作る過程で遅れが生じてしまうんですよね。中陣より後ろのバックはロビングになってしまいがちですし。フォアの方はそのまま、手の平でそのまま打つような感覚で、ある種やりやすいんですけどね

  • 私が卓球を本格的にやってた中学生時代は、あの河野満選手の全盛時代。彼の動画は今見てもバックが日ペンの弱点には見えません。ラケットの表裏を反転させるより速くも見える身体の捻りから繰り出されるバックハンド・・・。相手はどこを攻めても返ってくる高速なトップ打ちにバックスイングする余裕も与えてもらえてません。近年ペンの選手自体少ないですが、ペンの前陣速攻型はほとんど見ない気がします。最近の卓球界ではこの戦型は通用しないんでしょうか?

    • 河野さんは片面ペン表の世界的スターでしたからね。いま、30~40代以上だとペン表はまだ少しだけ居るかなという感じですが、ペンの表ソフト前陣速攻をジュニア世代で新たに始める人はほぼ居ないですね。ただ数年前に引退した田勢邦史というトップ選手が居まして、全日本で3位になった事もありました。

      というわけで全く戦えないわけでもないですし、勝てないわけでも無いですが、わざわざ苦労を強いられる戦型を選ぶ人が少なくなっているというのが現状ですね。

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